コカ・コーラ社製品の製造、販売、物流、回収を担う、コカ・コーラ ボトラーズジャパン。その社員数は約1万6000人という、まさに飲料業界のリーディングカンパニーです。
さまざまな働き方の社員がいるなか、健康経営を社内でどのように認知してもらい、浸透させているのか? 役員であり人事・総務本部長の上村成彦さんと健康安全推進課の藤井真琴さん、巻山修二さんにお話を聞きました。
上村成彦さん
執行役員 人事・総務本部長
一橋大学卒業後、ソニー株式会社の海外事業本部で長年活躍し、2009年に同社のアジア・オセアニア・中近東・アフリカ地域統括会社社長に就任。13年に同社人事部門副部長、翌14年より日清食品グループの執行役員・CHO(人事責任者)に。18年にコカ・コーラ ボトラーズジャパン執行役員兼人事本部長に就任。20年1月より現職。
藤井真琴さん
人事・総務本部 総務統括部 総務部 健康安全推進課 健康安全推進企画 マネージャー
制度企画部門を経て現職。コカ・コーラ ボトラーズジャパンで健康経営を導入したときから携わり、現在は、健康経営の基盤づくりや健康増進の企画を担当。
巻山修二さん
人事・総務本部 総務統括部 総務部 健康安全推進課 健康安全推進企画 課長
HRビジネスパートナー、採用課長を経て現職。安心・安全な職場づくりやウォーキングイベント、新型コロナワクチン職域接種のリーダーとして従事。
きっかけはシンガポールマラソン。運動を通したコミュニケーションの大切さ、健康経営の価値を実感した
「当社のミッションは『すべての人にハッピーなひとときをお届けする』ことです。それは、非財務目標として掲げている『CSV Goals(※)』を達成することで生み出される価値のひとつ、『社会価値』として、消費者やお客さまに、毎日の生活を支える飲料を届け、健康に関する情報発信をすることで実現を目指しています。でも、自分たちはどうなんだろう? と改めて考えたのが、健康経営に取り組むスタートとなりました」と話すのは上村成彦さん。コカ・コーラ ボトラーズジャパンの健康経営のキーマンといえる人です。
「以前、シンガポールの1000人ほど社員がいる日本企業で社長を務めていたことがあり、そのときに、シンガポールマラソンに出場したことがあるんです。希望制で参加者を募った結果、全社員の半数と一緒に走ることになりました」。そう当時を振り返る上村さんですが、シンガポールマラソンとはアジア最大級ともいわれる大きな大会。500人が気軽に参加できるものなのでしょうか? 「お揃いのユニフォームをつくって練習もしっかりやりました。本番当日は、参加しない社員や家族たちも応援にかけつけてくれました。その一体感はすごかったですね。しかも、マラソン大会をきっかけに、従業員サーベイもよくなり、仕事に対するモチベーションも上がりました。これが健康経営なんだと痛感した瞬間でした」と、上村さん自身が健康経営を意識し始めたきっかけを教えてくれたのです。
運動を通したコミュニケーションが、個々の心のサポーターとなり、チームワークも高めてくれる。上村さんがそのことを実体験として味わった機会でした。そして、コカ・コーラ ボトラーズジャパンでも健康経営を担うこととなりました。
※ 社会変化をふまえて持続可能な未来の実現に向け、取り組むべき課題を抽出したうえで、「環境」「社会」「ガバナンス」分野におけるコカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスグループのコミットメントを明示したもの。
「Sawayakaウォーク」は会社からの健康のための提案。これを機に、社員が主体となって運動を始めて欲しい
「健康経営」とはここ数年でいわれてきた言葉のように思えますが、上村さんによれば「日本の企業は伝統的に健康経営をやってきたと思う」といいます。「1980年代は、日本の企業の多くは『社内運動会』を行い、日頃の運動不足を解消したり、社員やその家族同士のコミュニケーションを図っていました。ところが、その文化が途絶えてしまった」と上村さんが指摘するように、高度経済成長期にはほかにも、会社の昼休みに社員同士でバレーボールなどをするのが流行したこともありますが、現在では考えもおよばない取り組みです。企業内でのアクティブな交流文化が消えてしまった現在、コカ・コーラ ボトラーズジャパンが取り入れたのが、さまざまな「運動」の施策です。
「新しいものでは2020年に始めた『Sawayakaウォーク』があります。これは全社員に貸与しているスマホにオリジナルのアプリをインストールし、それを使って適度な運動であるウォーキングを促すという施策です。期間中の平均歩数をランキングで表示するほか、所属部署や支店などで編成するチームによる団体戦ランキングも出るようになっています」と、健康安全推進課の藤井さんが教えてくれました。
さらに、競うだけではなく参加者同士で健康と安全の確認やお互いの歩数を称賛しあう『健康推進バッジ』を取り入れたり、ウォーキング途中の写真を社内SNSに投稿する『Sawayakaフォトコンテスト』を開催するなど、社員の「参加したい」という気持ちを高める工夫を経て、最近ではグループ全社員のおおよそ半数にあたる約7700人が参加するイベントになりました。
「当初は一日の目標歩数を1万歩としたのですが、歩数を伸ばすために無理をしてしまうなど逆効果になることもあるということで、現在は一日の目標を8000歩にしています。ウォーキングイベントは、『これをきっかけに運動を始めて欲しい』との思いから健康安全推進課が中心となり、年に複数回開催しています」とのこと。
「こうした施策は会社からの押し付けになってはいけない。でも『健康のための提案』となると反対する人は少ないんですよね。自分が健康になれるので、自然と協力的になる。これが当社の『健康経営』という意識をより高めていくことにつながっていきます。健康経営の本質は、社員が主体となって継続的に健康推進に取り組むようなカルチャーを醸成するところにあると思っています」と上村さんは話してくれました。
健康は大切。みんなわかってはいるけれど……。だから発信を続ける、効率的に情報を届ける
「当社では営業本部に所属している社員が多く、在宅勤務や直行直帰を推奨しているため、日中は、オフィスにいないことが多いという特徴があります」。上村さんがそう指摘するように、“社内イントラに情報をのせても全員に届けることが難しい”という課題がありました。
この課題解決の糸口となったのが、社員の能力を最大限に発揮できる機会の創出や業務の効率化を図ることを目的に同社が進めていたデジタル化とIT導入。この一環として、2019年末に同社およびグループ社員全員にスマートフォンが貸与され、外出先などでも社内の情報をクイックに収集できるようになりました。
「『Sawayakaウォーク』もそのひとつですが、社員のみなさんに興味をもってもらえるようなイベントを仕掛け、情報発信するようにしています。また健康について関心を持ってもらうために、今年、健康管理システムを刷新しました。同システムは、健康診断結果の確認や自身の体重・血圧などを記録でき、身体の変化をチェックするのに役立ちます。改善を見える化することで、モチベーションアップにつながるように努めています。また、遊びながら健康について学べるクイズ機能などもあり、自律的な健康保持・増進活動をサポートしています」と藤井さん。
さらに、「さまざまな施策はやって終わりではありません」というのは巻山さん。「イベントが終わったあとは必ずアンケートを取り、参加者の意見を聞いて分析し、KPIを明確化すると同時に次の施策につなげていくようにしています」。それも社員が楽しく取り組める一因になっていることは間違いなさそうです。
また、同社では毎年の定期健康診断のほか、人間ドック検診補助費用として2万2000円を補助しています。これに加えて、健康増進ポイントを社員に対し一律に年間2万ポイント付与しています。「このポイントは、健康グッズの購入に充当することが可能で、専用のWebサイトでグッズに交換できる仕組みを導入しています」と藤井さん。
さらに、社員本人だけでなく、その家族にも健康でいて欲しいという思いから、家族が受ける健康診断にも補助が出る仕組みが整っています。
このように健康経営を進めていくなかで、もうひとつの大きな課題が禁煙です。「○月○日より全面禁煙となります、としてしまうと抵抗感が強いですよね。そこで当社では徐々に広めることにしました。『勤務時間内は禁煙、吸うときは喫煙所へ』から始め、徐々に喫煙所をなくす、という方法で2023年1月より就業時間内は全面禁煙となる予定です」
と教えてくれたのは上村さん。『2年後にはこうします』と、未来を予告する。変更する時期が遠いほど抵抗は起きにくく、心も身の回りの準備もしやすいのではないでしょうか。
健康の取り組みを通して、体だけでなく心も健康に。アフターコロナでは社内のクラブ活動やイベントが重要
新型コロナウイルス感染症のまん延により、どの企業も働き方の転換を迫られました。
コカ・コーラ ボトラーズジャパンは、2018年よりテレワークを導入していたこともあり、スムーズに在宅勤務へと移行。今ではオフィスに出社している社員が少ない状態だといいます。
こうした状況で大切なことは何かと聞いたところ、「いかに濃いコミュニケーションをとるかが重要です」と上村さんは即答しました。かつては多くの日本企業でその役割を社内運動会が担ったように、コカ・コーラ ボトラーズジャパンでは「Sawayakaウォーク」がその役割を果たしています。さらに「残念ながらコロナ禍の現在は活動がしづらい状況ですが、それまでは活発に行われていたクラブ活動もコミュニケーション醸成を担うとても重要な存在になりつつあります」と巻山さんはいいます。巻山さんによると、社内にあるクラブの数は21。フットサルや野球など種類はさまざまですが、「小さなコミュニティにしないこと」「希望者は誰でも入れること」など門戸を広く開けることが条件で、補助金が出る仕組みになっています。
体を動かすことは健康をつくるだけでなく、コミュニケーションを生み出し心の健康をもたらす。それはアフターコロナでいっそう大事になっていくのかもしれません。
「当社が掲げる『これまでのやり方は選択肢にない』という強い意志の通り、今までのやり方に固執していては新しいものはできません。個々が伸び伸びと創意工夫できる環境を整えることが実力を発揮することにも、健康にもつながるのですから、会社は社員それぞれの快適性を考えることが求められます。例えば、歩くのは抵抗があるけれど、自転車ならいいという人もいます。自転車通勤は国土交通省も推奨していますし、当社でも通勤手段の選択肢として勧めていて、2020年9月には新たな自転車通勤制度を策定し、手当の支給などを行っています。当社では、ほかにも『Sawayakaチャレンジ』と称した生活習慣改善の取り組みを推進しています。そんな取り組みの積み重ねがあって、健康経営優良法人(ホワイト500)、国土交通省の『自転車通勤推進企業』宣言プロジェクトの宣言企業、スポーツ庁のスポーツエールカンパニーの認定をいただくことができました」という上村さんに、巻山さんは「上村さんも自転車通勤していますよ」と教えてくれました。
社員一人ひとりを柔軟に受け入れてくれる企業の風土が伝わってくるようでした。
設立:2001年6月29日(2018年1月 コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社に商号変更) 事業内容:清涼飲料水の製造、加工および販売 社員数:約1万6,000人(臨時雇用含まず)(2020年末現在)