- 設立 1971(昭和46)年4月
- 事業内容 住宅の設計・施工・販売、リフォーム、一般建築(アパート、店舗、工場など)、不動産の販売・仲介・コンサルタント、木材販売、パレット製造販売
- 資本金 2,000万円
- 従業員 88名 ※2020(令和2)年5月1日時点
- 本社住所 石川県加賀市柏野町イ51
- 電話番号 0761-77-2133
- URL https://shimoara.co.jp
木を育て、伐採して製材し、建物を作る……これらの全工程を自社で一貫して行っているシモアラ。同社ほどの規模で自社一貫システムの家づくりをしている会社は、県内にはごくわずかだという。グループ会社である「北陸プレカット」もまた、原木の仕入れからプレカットまで一貫して行い、自社に限定せず必要とされる同業社に販売納品している。そんな同社の志は木に対して真っすぐに向き合いながら、「〈木の恵み〉を次世代へ伝えていく」ことである。その土地で芽吹き、育つがごとく、南加賀で約70年続いてきた同社が目指す未来を、代表取締役の下荒隆晴氏に聞いた。
はじまりは製材所。70年の流れの中で柔軟に発展
今と変わらぬこの地で、シモアラの前身となる製材所を私の祖父が知人と共同して開業したのは昭和22年のことです。当時は終戦後で経済復興の糸口を探していた混乱期で材木の需要が高く、身近に森林があるこの土地で多くの製材所が開業したと聞いています。昭和25年に共同会社から独立し、昭和46年に「有限会社下荒製材所」を設立し、平成17年に社名を「株式会社シモアラ」と変更して、今に至っています。
現在、この土地で製材業をしているのは当社のみですが、約70年以上にわたって続けてこれたのは、地域の皆様の信頼と、当社で力を発揮し続けてくれている職人や社員のおかげと日々感謝しています。
製品の遍歴で言えば、昭和43年にパレット販売を開始し、昭和57年には構造用集成材製造販売を開始し、現在は住宅や一般建築の設計から施工、販売まで一貫して行い、不動産の販売もしています。木材販売は開業時よりずっと続いていますから、当社の工場には常時丸太が約3100本ほど積まれています。この風景は何年経っても変わらないシモアラの原風景とも言えるかもしれません。
当社が施工した建築をひとつ挙げるなら、山代温泉の古総湯です。今や山代温泉のシンボルともなっている古総湯は、建築家の内藤廣先生のもとで平成22年に復元完成させたものです。内藤先生は山代温泉のまちづくりアドバイザーとして10年以上関わってくださいまして、総湯は複数の建築会社と共同で作り、古総湯は当社のみで作り上げました。古総湯は明治時代の総湯を木造復元したものですが、屋根はこけら葺き、浴場の大空間、その上にある畳敷きの間までどれも高い技術を要するものばかりで、材料調達も容易ではありませんでした。特に浴場の梁については仕様書通りの丸太が県内に無く、全国を探し回って青森から運送したものです。
ほかにも公的な建築や一般住宅を作らせていただいていますが、「シモアラに依頼しよう」と思われるのは、先代、先々代からの「昔からある会社」という信頼と実績によるもので、「木の魅力」を伝え続けてきたからでしょう。私もまた、この土地から「木の魅力」を次世代へ継いでいきたいと考えています。
思い出が今の自分を形作り、これからの未来へとつながる
先代である父は社長であると同時に職人でもあり、伐採してきたばかりの丸太を一目見るなり「これだけの角材、製品が伐り出せる」と的確な目利きをします。それは当社に20年以上勤める職人社員をして「自分にはあれほどの木取りの目利きはできない」と言わしめるほどで、仕事に一切の妥協を許さない職人気質の人です。同時にリーダー気質を持ち合わせているので、景気が下降してきた時代でもグイグイ会社を引っ張り、新規事業にも果敢に挑戦していきました。その先代を育てたのが祖父である先々代ですから、きっと職人タイプの社長だったことと思います。そんなふたりの背を見つつ、平成27年に三代目社長に就任しました。
私は製材所の息子ですので、小学生の頃には仕事場に顔を出していましたし、遊び場にもしていました。今はさすがに安全面ではNGですが、当時はスマホが無く、ゲームも少なく、友人たちと外で遊ぶことがとても楽しかったのです。田舎道で車の通行量が少なかったこともあり、丸太が置いてあるところから会社前の道の手前で鬼ごっこやかくれんぼ、キャッチボールをしたりと。遊び終わる頃には、皆しておがくずだらけになっていましたね(笑)。
その頃と今を比べると、木にふれる機会があまりにも少ない。施工費や温度・湿度への強さ、デザインや色のバリエーションの多さなどから、建物や家具には合板が多く使われてきた時代の流れの結果だと思います。木にも合板にもメリットとデメリットがありますから、それをふまえた上で「木のファン」を増やしたい。木を体験する機会がないなら、木にふれる機会を創出しようじゃないか! そう考えて開催したのが「シモアラ感謝祭」でした。
木の魅力を伝えると同時に、地元の魅力も再発見
平成25年に開催したシモアラ感謝祭は、製材工場の建屋を新設したお披露目会でもありましたから、外部のイベンターを頼らずに自分たちの力で企画・運営してくれと、社員たちにお願いしました。私を含む社員たちのイベンター経験はゼロでしたが、「お客様へ感謝を伝える」「木にふれて、木の魅力を体感する機会を」と予算200万円の中で試行錯誤し、企画・運営してくれました。当社の取り組みと仕事を知ってもらおうと、丸太から製材、施工、完成までの木の家作りブースを設営、親子用の木工教室などワークショップエリアも設けました。当社で施工させていただいた飲食店に掛け合ってグルメも出店、近隣中学校の吹奏楽、芸人さんのステージ、山代大田楽の演舞などを盛り込んだ結果、当日は大盛り上がり。来場者は1000人を超えたのです!
開催以降、「設計事務所が作った図面に沿って家を作る」スタイルよりも、「シモアラで設計から施工、竣工まで一貫しておまかせ」スタイルが増えたので、当社の知名度も上がったと実感しています。
また、木にふれる機会を作るべく、地域のイベントには前向きに参加し、木工教室や鉛筆立て作りなどのワークショップを開催しています。もちろん使用木材は「地元の木の魅力にふれてほしい」との思いで県産材を用いています。
ワークライフバランスとオフィス環境面へのこだわり
当社では働き方改革以前からワークライフバランスとオフィス環境を重視してきました。ものづくりは没頭すると時間を忘れやすいものですが、当社では休憩を取りやすくしていますし、定時退社もしやすい空気があります。
業種上、男性社員の比率が高いのですが、当社は比較的女性も活躍している職場ですので、育休、産休はもちろん、2020年より時間有休制度も導入しました。1時間単位で有休が使えるので、授業参観や運動会、町内行事など「全日有休を使うほどじゃない」という時に便利だと男女問わず好評です。
また、禁煙手当てを2018年よりスタートしているのですが、これは禁煙宣言した社員が1か月禁煙達成するごとに達成金を出すというものです。ただ、「愛煙家として、まず禁煙宣言が難しい……」との声も聞きます(笑)。とはいえ喫煙者を排除するわけではなく、「外で吸うと寒いから」と喫煙者のための喫煙室を用意しています。
ほかにも資格取得の支援、提携ジムの利用券、まかない飯などいろいろありますが、全ては社員たち皆の心身の健康のためです。まかない飯で言えば、玄関を入ってすぐのキッチンで週2回作っています。社員にあたたかいごはんを食べてほしい、地物の米と野菜を味わってほしいとの思いで始まったもので、私も先代も推奨しています。
オフィス環境面では、2018年の本社リニューアルが大きいですね。無垢材をたっぷり使いつつ、大きな吹き抜け、中2階、半地下と立体感とデザイン性、空間活用を追求。そこにガラスを多用することで、どこにいてもお互いの気配を感じられる、いい意味での「見える化」を実現しました。
お互いに高め合える社風が、困難を乗り越える力に
どの部署においても木を扱うため、木に対する知識は必須です。とはいえ、経験者や専門学校を出た人でないと入社できないかというと、そんなことはなく、むしろ入社してから実地で習得していけばいいとも考えています。
新卒入社で言えば、最初に社会マナーなどの基本研修を経て、それぞれの部署に配属されます。特に大工や設計などの職人仕事ともなると、社内弟子入りの感覚で2年間ほど先輩にべったりついて実地で学んでいきます。その間は仕事といえども見習いであり、先輩の仕事ぶりを間近で見て学び、技術を習得してもらっています。厳しい言い方になってしまいますが、懇切丁寧に手取り足取り教えてやっと技術を習得できるのでは、正直向いていない。職人は経験則と感覚による仕事が多いため、社内弟子入りで自分なりの感覚をつかんで成長してほしいと思っています。
業種上、当社には職人気質の人が多く、人によっては話しかけづらかったりすると思います。しかし、萎縮しないでガツガツ行くくらいがちょうどいい。「自分はこんな職人になりたい」「こういうものを作りたい」と目標を持つほど成長は早いですし、協調性も高くなります。日本古来の木の文化を扱う技術職ですから、一人前になるには3年はかかると全社員が長期的視野を持っていますので、めげずに根気よく経験をたくさん積んでほしいのです。
仕事として建築を手がけるには人と人との協力が必要です。より良いものを建てるためチームを組んで動くので、社員同士の仲は良い。強いリーダーについていくのではなく、各自が木に対して意見を出し合い、お互いを尊重し、良い所を重ね合わせて大きな力を出す「ワンチーム」を目指しています。