金沢武士団(北陸スポーツ振興協議会株式会社)
代表取締役社長 中野秀光氏
学校の部活や社会人のサークルとは異なり、「プロフェッショナル」であり「ビジネス」としてプレー&運営されるバスケットボールリーグ「B・LEAGUE」(以下、Bリーグ)。B1、B2の正式名称は「ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」であり、B3は「ジャパン・バスケットボール・リーグ」と、同じBリーグながらも〈プロフェッショナル〉があるかどうかの差は大きい。
2015年に石川県で設立された「金沢武士団(カナザワサムライズ)」は、Bリーグの前身である「日本プロバスケットボールリーグ」(以下、bjリーグ)に参入し、2016年に当時新設されたB3リーグでの健闘を経て、2017‒18年シーズンにB2へ昇格。しかし、B2ライセンス更新は3期連続の赤字回避が条件だが達成が難しく、2019‒20年シーズンより無念のB3リーグ降格となった。苦難の時期を迎えながらも、プロフェッショナルとして、そして会社経営として、地域貢献につなげる気概は涸れることはない。「プレーヤーズファースト」「スポーツを通したまちづくり」を掲げる代表取締役の中野秀光社長に、金沢武士団のエネルギーとこれからの展望を聞いた。
まちづくりには、プロスポーツも鍵になる
バスケットボールの試合は屋内で行われますから、天候や気温に左右されることなく楽しめるスポーツのひとつです。また、試合の流れが読み取れる経験者だけのためのスポーツではないのです。バスケットボールに限らず、全てのスポーツの観戦は未経験者も歓迎しています。経験者に連れられて会場へ観戦に訪れ、目の前で繰り広げられるリアルな熱気と感動にふれたら、また観戦に行ってみようかなと思うでしょう。そうしてスポーツを見ることがだんだん楽しくなってくるはずです。その最たるものが東京五輪かと思います。
プレーする選手たちはもちろん、その活躍を見る観客もまた熱狂し、スポーツへの共感と感動が家族やパートナー、友人へと伝播しますから、まちが元気になります。元気なまちには人が集まり、人が集まれば経済が回ります。ひいては地域の魅力を創出することにもなります。スポーツがもたらす地域の魅力創出については、私自身、故郷の新潟県で実際に取り組み、実現しています。
私は学生時代にバスケットボールを、社会に出てからはご年配の方にゲートボールを教えたり、保育園で簡単な体操を教えたりと、さまざまな形でスポーツに関わってきました。だからこそ、「本場のプロフェッショナルスポーツの感動と興奮を身近に体感してほしい」と考えて、故郷の小さなまちにアメリカNBAのOBチームを招聘し、2年連続で試合を開催したのです。迫力ある本場のプレイは、会場にいる全ての人を魅了しました。夢と興奮に満ちた試合の裏に、契約やチケットなどさまざまな問題が……という苦心もありましたが、スポーツがもたらす地域の魅力創出の成功エピソードのひとつでもあります。
これらの活動が縁で、2002年に新潟スポーツプロモーション(新潟アルビレックスBB)の代表取締役社長とbjリーグ理事を務めさせていただき、2007年にbjリーグ代表取締役社長に就任しました。2016年にはBリーグ発足とともに新潟アルビレックスBBがB1リーグ入りし、同タイミングでアオーレ長岡をホームアリーナとして試合を開催。4600人収容可能のアリーナで繰り広げられるプロバスケットボールの試合は多くの子どもたちに夢を与え、地域も企業も一体となってまちが活性化していく流れにもたずさわりました。また同年、スポーツ庁における「スポーツ未来開拓会議」13名の委員のひとりとして活動し、日本国内のみならず、世界各国のスポーツ事情や展開にも目を向けた上で、日本のスポーツが巨大なビジネス産業として成長しつつあると感じています。
しかし、金沢武士団が直面している課題のひとつに、施設と環境整備が挙げられます。ホームアリーナである金沢市総合体育館の観客席は約2300席ですが、駐車場は360台分のみ。これではすぐに満車になってしまい、駐車できなかったぶん観戦の機会が減少、観客数も減ってしまいます。これを金沢市長も憂いてくださり、2020年1月に320台分の駐車場を新たに整備。当体育館でのホームゲーム開催時に利用可能となったのです。
金沢武士団が、地域活性化のメルクマールに成り得る
私が石川県に来たのは、金沢武士団創立2年後となる2017年です。北陸スポーツ振興協議会の役員から「金沢武士団に来てほしい」と、お声をいただいたことがきっかけでした。
お話を引き受けた時点で金沢武士団はbjリーグ参入中であり、私が運営にたずさわり始めたのはB3リーグからとなります。そして、社長として就任する以前には1億円もの赤字を計上していたのです。これは私の想定を超えており、この赤字をいかに黒字に変えていくか悩みましたが、このことについて金沢で参考となるスポーツチームがありました。バスケではなく、サッカーの「ツエーゲン金沢」なのですが、J3からJ2に昇格した時の金沢の盛り上がりが、観客動員数などの経済効果も含めて実にすばらしいものでした。このことから黒字転換には「勝つことは必須」であることと、発展の目覚ましい金沢では、さらなる演出やチームのブランド力も必要だと感じました。
とりわけ選手の強化を軸にした結果、金沢武士団は2016-17年シーズンのB3リーグで、全国どのチームも叶わなかった前人未到の23連勝を成し遂げました。しかも、B2リーグへ昇格できる枠は1チーム限定だったのですが、Bリーグ側から推薦を受けて、入れ替え戦を行わずに2017-18シーズンにおけるB2リーグへの昇格が実現。その時の地元やファンの皆様の盛り上がりは、私にとっても本当に嬉しいものでした。
このままB2リーグで活躍を……と思ったのですが、B2リーグはB3リーグとは比べ物にならないほどの膨大な経費が必要であり、2年間のB2リーグ参戦で負債が膨らんでしまったのです。かつてのbjリーグでは、チームに所属する全ての選手の年棒総額を、一定の上限金額で規定する「サラリーキャップ制度(総額年俸の制限)」を設けていました。その規定があったため、資金を集めにくい地方でも年棒の高騰を抑えられ、チーム努力で勝利することが可能でした。しかし、Bリーグにはサラリーキャップが存在しません。つまり、選手のモチベーションを高めたり、良い選手を他チームから引き抜いてくるには「良い年棒を保証する資金力」が必要不可欠だということです。「Bリーグで活躍するためには、収入を何倍にもしないと戦えない」ということをB2リーグ参戦の際に非常に痛感しました。
収入を増やすということは、観客動員数もスポンサーも増やすことであり、そのためには〈魅力ある選手〉が必要となってきます。それも「金沢武士団の試合を間近で見たい!」と思わせるようなプレーをする選手です。
2018-19シーズンまでは「能力はあるが、チームとの相性で試合出場時間が少なく、試合に出場することに飢えている」状態にある他チームの選手たちを選んでそろえました。飢えているから試合での熱が違うし、予想できない劇的な展開も期待できます。私自身も「この金沢武士団で経験を積み、いい選手として育ち、頭角を現してもらえれば」と、彼らの未知数への期待もありました。そうして再びB2リーグへ昇格すれば、まちの活性化のメルクマール(目印)にもなるのではないでしょうか。
「観る」スポーツから、「語る」スポーツへ
私が金沢に来て初めに感じたのが、スポーツに対して「プレー」環境は整っていますが「観る」環境が未整備だということです。東京五輪で、スポーツを「観る」という注目度や需要が上がりましたが、これからのスポーツは「語る」も重要と考えています。
新潟県や千葉県などバスケットボール人気が熟している地域では、「試合のここが良かったね」と、観戦後も家で盛り上がるなど、家庭内でごくふつうにスポーツのことが話題に上るそうです。これはバスケットボールのみならず、野球やサッカー、ラグビーなどスポーツ全般に言えることで、〈生活の中に入って語られるスポーツ〉の在り方が大切になってくるのではないでしょうか。
石川県はミニバスケットボールが盛んで、時には県内のチームが全国制覇を成し遂げるほどハイレベルです。特に金沢は女子ミニバスが盛んという土地柄、ママさんバスケットボールをしていらっしゃる母親も多く、親子でバスケットボールをしている家庭も多いと聞きます。つまり、県内におけるバスケットボール界の「土壌」がいい。それなのに観客数が増えきれないのは、実は、県内の各地域で盛んなスポーツが違っているから。そのことに気付くまで、ずいぶん時間がかかってしまいました。
そして重要なのが、「プレー」に偏らないこと。バスケットボールにあまり詳しくない方も楽しめるように、華やかなチアダンス、マスコットキャラクター「ライゾウ」の応援など、さまざまなエンターテインメントも行い、会場を盛り上げています。時にはライゾウがツエーゲン金沢のマスコットキャラクターとお互いに交流し、サッカー、バスケの垣根なく石川県のスポーツ界を親しみやすいものにしてくれています。
プロの試合を目の前で見たい、お気に入りの選手がいる、ライゾウに会いに来た、華やかなチアを楽しみたい……ご来場いただく理由は人それぞれです。せっかく試合会場までお越しいただいて、金沢武士団を観戦いただいたのに、一度きりで終わってほしくありません。「金沢武士団の試合は楽しい!」と、もっと好きになっていただきたいし、家族も友人も誘って観戦を重ね、コミュニケーションツールにもしていただきたいのです。
地域に根差し、堅実に育っていくことが大事
金沢武士団は企業チームではないので、親会社の業績で存続が左右されてしまうことはありません。経営は、観客の皆様のチケット収入と、スポンサーの皆様のご支援を中心に成り立っています。スポンサー企業の期間は年間もありますが、1試合のみの協賛もあります。どの形であれ、ご支援いただけることがとてもありがたく、石川県には「粋」な企業が多いと、経営者の皆様とお話しするたびに感じています。
声を大にして自己主張したり目立つことはしたくないけれど、困っている人がいたら、心から助けたい。自分たちが住む地域を応援したい――そんな奥ゆかしい心を持った人が多いので、私も良いことも悪いことも包み隠さずオープンにしています。真っすぐ向き合う私の姿勢に対して、地域活性化の期待を込めてご支援くださる方もいらっしゃいます。
そして金沢武士団のスポンサーは、チーム全体や会場内看板はもちろんのこと、選手ごと、さらには金沢武士団チアリーダー、ライゾウにまでもスポンサーがついてくださり、各ユニフォームにスポンサーネームが入っています。
皆様の期待に応えるために選手の力も経営の力も上げなくてはいけません。私はプレーヤーズファーストをとても重視しているので、選手たちの将来――つまり、引退後の「道」を見つけるサポート体制も大切と考えています。
選手たちは良い試合をするために常日頃から自己管理をしていますので、実体験に基づく健康ノウハウを持っています。これを活かして、市民サービスとして健康体操や筋トレ、クラブチームの指導などいろんなセカンドキャリアが考えられるでしょう。在籍中も試合などで活躍を重ねてスター性を磨けば、子どもたちの憧れのシンボルになり、親子で試合会場へ観戦に来たり、心に強く残る思い出になるでしょう。
金沢武士団を含む石川県のスポーツが活性化することで、宿泊や交通、飲食などの経済も回りますし、それに伴いスポーツ環境が整備され、充実するでしょう。地域が活性化すると自分たちが住む地域をより一層誇らしく感じられますし、スポーツへの関心が高まることで市民の健康促進にもつながることが見込まれます。
現在の売上はB3リーグでの平均をクリアしていますが、「シーズンを継続できるか?」の状況でもありました。そのなかで、目標としていました黒字化への着地が見え、B3リーグへの来期参戦が現実となりました。全ては県内外から多くのご声援とご支援をいただきましたおかげです。この先もプレーができますことをうれしく思い、感謝の念に堪えません。本当にありがとうございます。
来期は更なる「壁」を乗り越えるべく、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を重点に置いて取り組み、チーム一丸となって精進し、皆様に喜んでもらえるようなバスケットボールができるようがんばってまいりますので、今後も金沢武士団をよろしくお願いいたします!
- 北陸スポーツ振興協議会株式会社
- 設立 2014(平成26)年11月7日
- 従業員 7名 ※2020(令和2)年5月1日時点
- 本社住所 石川県金沢市鱗町97-1 アトラスビル
- 電話番号 076-256-0744
- URL https://samuraiz.jp